THE MASTER BOOK OF AUTHENTIC AMERICAN ATHLETIC APPAREL チャンピオン読本

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monoマガジン編集局長が語る『チャンピオン読本 US取材後記』第三回
ノースカロライナの工場へ

5.ノースカロライナの工場へ
 今回のアメリカ取材班の目的の中で、一つ大きなテーマだったのが“チャンピオンのクオリティをいかに読者に伝えるか”でした。ですから、実際にチャンピオンの製品を製造している工場は欠かせない取材対象でした。訪問させていただいたのはノースカロライナ州アッシュボローにある工場。ノースカロライナ……まったく馴染みがありません。頭に浮かんだのが不二家のキャンディの名前くらいです。土地鑑はおろか、取材班の全員が初めて行く州でした。州最大の都市シャーロットからクルマで2時間ほど走ったところに工場はありました。アメリカではモノ作りの現場は、その規模で呼び名が変わります。たとえば巨大な工場はプラント、中規模はミルズ、小規模及び個人工房はファクトリー。繊維関係の工場の多くはミルズ(Mills)と呼ばれる場合が多いようです。チャンピオンの製品を製造している工場も「ミルズ」の規模です。さて、工場内を案内してくれたのはコーディネーターのスコット・シンプソンさん。なかなかハンサムなナイスガイでした。スコットさんによると「チャンピオンのウエアは本当に高いレベルが要求されるので、製造ラインの決まり事も“チャンピオン・クオリティ”と呼べるほど厳格なもの」なのだとか。
 

コーディネーターの
スコット・シンプソンさん
いまアメリカの多くのブランドが“メイドインUSA”への原点回帰を行っています。皆さんご存知のように、世界の工場が労働賃金の安いアジアにシフトした結果、ブランドはアメリカなのに、製造は中国や東南アジアの国という製品をよく見かけるようになりました。そういう状況が長く続いたことで、多くのユーザーが「やっぱりメイドインUSAが欲しい」という声を上げるようになったのです。そういえば、ロンドン・オリンピックのアメリカ代表のユニフォームが他国製造だったことで、国内メディアから批判が出ましたよね。以前であれば誰も問題視しなかったことなのに、時代の移り変わりはモノの価値観も変えてしまいます。いまの時代はメイドインUSAであることが、一つの大きな価値として捉えられるようになっているのです。しかしチャンピオンは、メイドインUSAもこだわり続けた数少ないブランドのうちの一つ。その生産ラインにおけるこだわりについては、誌面で詳しく述べていますのでここでは割愛しますが、ひとつひとつの工程における丁寧な作業は、間違いなくUSAブランドとしてのプライドを感じさせるものだった、ということをご報告させていただきます。
 チャンピオン・クオリティの証明として特筆しておきたいのは、フラットシーマーと呼ばれるミシンについて。これはチャンピオンのリバースウィーブ®の特徴である“滑らかな縫い目”には欠かせないマシーンで、フラットシーム、つまり平縫いができるミシンなんですね。1962年にアメリカのユニオンスペシャル社が開発し、その後生産が終了されたので、現存するモデルは希少なんですが、ここの工場ではちゃんとユニオンスペシャルが使われていました。このミシンで縫うと縫い目がフラットになるため、リバースウィーブ®の裏側が滑らかで肌に刺激を与えない縫い目になるんです。こうした製法によるチャンピオンのスウェットの着心地の良さは、是非一度着てみてご確認ください。

ユニオンスペシャルの
フラットシーマーで作業中

ワッペンの縫い付け
 

空環。これは後の工程で
切り落とされる

工場内作業風景
 
参考までに、タレントの川崎カイヤさんが小誌「アメカジ特集」のインタビューで語っていたお話を転載しておきましょう。

編集部 学生時代はチャンピオンのスウェットとか着ましたか?
カイヤ あのね、日本のスポーツウエアとアメリカのスポーツウエアには大きな違いがあります。それは裏側の肌触りなんです。アメリカ製のスウェットはとにかく素肌で着ても気持ちいい。確かに日本製はとてもしっかり作ってあるけど、肌はそんなに気持ちよくないんです。それはやっぱり、アメリカのコットンが柔らかくていいからだと思う。実際、ウチの子供たちもスウェットはわざわざアメリカ製を着たがる。彼らが欲しいのは、裏側の“柔らかさ”なんですよ。(monoマガジン2014年10月2日号より抜粋)

この裏側の柔らかさ、スムーズさが、チャンピオンのリバースウィーブ®の特徴なんですよね。カイヤさん、このときはとても熱く語っていらっしゃいました。
 フラットシーマーについて、この工場取材とは関係ない情報なんですが、どうしても皆さんにお見せしたいものがあります。それは空環(からかん)あるいは縫い流しという、平面縫いで最後まで縫った後にほつれ止めのためにわざと付ける糸の延長のことで、現行製品ではほつれ止めの処理をしてカットしてありますが、フラットシーマが導入された初期のほんの一時期だけ、この空環が付いたまま製品化されたことがあります。空環付きのチャンピオンのスウェットはコレクター市場でも非常に珍しく、滅多に当時のモノを目にすることはないのですが、たまたま個人的に所有していた、コラボレーションの企画物で作られたスウェットが空環付きだったので、参考までに写真でお見せしましょう。

元イッセイミヤケのデザイナーだった
滝沢直巳さんが20年ほど前に製作した
チャンピオンとのコラボレーション・スウェット。
タグは5インチ四方を縫い付けた珍しい
60年代前半風のデザイン
(個人所有で現行製品ではありません)

わざわざ残してある空環(からかん)
 
 
 
 
 

 工場での取材が終わりに近づいた頃、コーディネーターのスコットさんがポツリと漏らした言葉が印象に残っています。「アメリカ人は、青春時代をずっとチャンピオンを着て過ごすから、チャンピオンというブランドは僕らにとって特別な存在なんです」。